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年金と生活保護は両方受給可能?条件・注意点・支給日を解説!

岡地 綾子 【ファイナンシャル・プランナー】

お金

年金と生活保護は両方受給できる?
どっちが多い?

「生活が苦しい」「収入がなくて困っている」そんなときに、国が用意している最後のセーフティーネットが「生活保護」です。 生活保護は経済的な理由で生活が困難になった人を支援するための制度ですが、年金受給額が最低生活費より少ないなどの一定条件を満たせば、年金と生活保護を両方受け取ることも可能です。 この記事では、生活保護の仕組みや種類、年金と同時受給する場合の条件や注意点についてわかりやすく解説します。

目次

生活保護とは?

生活保護のイメージ

まずは、生活保護制度について確認しておきましょう。

生活保護とは経済的な理由で生活が困難になった人を支援するための制度

生活保護とは、経済的な理由で生活が困難になった人を支援するための制度のこと。生活費や住宅費、医療費や教育費など、個人の状況に応じて必要な費用が支給され、最低限度の生活を保障することを目的としています。

生活保護制度を利用するためには、収入や資産が一定の基準を下回っている必要があります。つまり、自分や家族の力だけでは生活を維持できないと判断された場合のみ、利用できる制度です。

なお、生活保護は一時的な救済措置のため、生活状況が改善すれば支給は終了します。経済的自立を支援するための制度でもあるため、支援を受けながら再出発を目指してもらうことを目的としています。

※1:厚生労働省|生活保護制度

生活保護の種類

生活保護を受給する世帯の多くには、「生活扶助」や「住宅扶助」など、生活の基本を支える複数の支援が提供されています。ここでは代表的な8つの扶助をご紹介します。

名称

支給内容

生活扶助

日常生活に必要な食費・
衣類・光熱費などを
まかなうための費用

世帯構成や年齢により
基準額が設定されている

住宅扶助

賃貸住宅に住む場合は
家賃を上限に実費を支給

持ち家の場合、必要に
応じて固定資産税などが
支給される場合もある

教育扶助

義務教育を受ける子どもが
いる世帯を対象に、
学用品費や給食費などを
実費で支給

医療扶助

診察・治療・入院などの
医療費の支給

医療機関へ直接支払われる
ため、受給者は窓口で
費用を負担する必要がない

介護扶助

介護保険サービスを
受ける際の費用

介護事業者に
直接支払われるため、
利用者の自己負担はない

出産扶助

出産に必要な
分娩費用や必要経費など

生業扶助

就労に必要な技能習得や
高校・大学進学にかかる
費用など、就労支援や
自立を促すための費用

葬祭扶助

生活保護受給者やその扶養
義務者が死亡した際の
火葬・埋葬などの
最低限の葬儀費用の支給

上記の扶助は、それぞれの生活状況に応じて必要な範囲で提供されます。

生活保護を受けるための自助努力

生活保護を申請する際には、以下の自助努力を行っても、なお生活が困窮していることが条件になります。

生活保護を受けるための自助努力
  1. 資産の活用:預貯金や不動産などを生活費に充てる
  2. 能力の活用:働ける状態にある人は働く
  3. あらゆるものの活用:公的支援制度などを活用する
  4. 扶養義務者の扶養:親族から援助が受けられるか確認する

年金と生活保護を同時に受給する際にも、上記の自助努力は必要になります。

住民税非課税世帯とは?年金受給者は該当?年収は?わかりやすく解説!

年金と生活保護は両方受給できる?条件は?

年金と生活保護は両方受給できる?

「年金を受けていると生活保護は受けられないの?」と疑問に思う人も多いでしょう。ここでは、年金と生活保護を同時に受給できるのか、その場合の条件について解説します。

条件を満たしていれば同時に受給できる

年金と生活保護は、条件を満たしていれば同時に受給可能です。同時受給可能な理由は、年金と生活保護の役割が異なるためです。

年金は、高齢や障害状態にある人が、あらかじめ納めた保険料に応じて老後の生活を安定させるための制度。生活保護は、経済的に困窮している人に対して、国が「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために必要な支援を行う制度です。

上記のように、それぞれの役割が異なるため、一定条件を満たしていれば同時に受給することが可能になっています。

年金と併給する場合の生活保護費は【最低生活費-年金を含む収入】

年金と併給する場合の生活保護費は、「最低生活費−年金を含む収入」で計算されます。

最低生活費とは、国が定める健康で文化的な生活を送るために必要な費用のこと。地域・世帯構成・年齢などに基づいて計算されます。詳細は、厚生労働省の「最低生活費の算出方法」で確認可能です。

生活保護の支給額は、年金受給額が少ないほど生活保護費が多く支給されるようになっているため、年金受給額が最低生活費に近づくほど生活保護は少なくなります。

※2:厚生労働省|生活保護制度との関係について
※3:厚生労働省|生活保護制度における地域差等について

条件①年金受給額が最低生活費より少ない

年金と生活保護を同時受給する条件1つ目は、年金受給額が最低生活費より少ないことです。

生活保護では年金を「収入」として扱います。そのため、年金額だけで国が定める最低生活費を満たしていない場合に限り、不足分が生活保護として支給される仕組みになっています。

  • 年金月額が8万円
  • 最低生活費が12万円
  • この場合、不足する4万円が生活保護費として支給される

生活保護の原則的な考え方は「資産や能力、年金などあらゆるものを活用した上で、それでも生活が成り立たない場合に支援を行う」こと。これは、生活保護を受ける際の自助努力の「あらゆるものの活用」に該当します。

まずは年金を活用して生活することが優先されますが、年金額が最低生活費を下回っている場合は生活保護を受けられる可能性があります。

条件②家族や親族から援助を受けられない

年金と生活保護を同時受給する条件2つ目は、家族や親族から援助を受けられないことです。

民法第877条第1項では、親・子・兄弟姉妹など三親等内の親族に「扶養義務」があると定められているため、生活保護の申請時には、これらの親族が申請者を支援できるかどうかを確認する「扶養照会」が行われます。

扶養照会の結果、親族が「仕送り可能」や「面倒を見られる」と回答した場合は、原則として生活保護は受けられません

しかし、以下のような事情がある場合には、扶養義務者がいても生活保護を受給できる可能性があります。

扶養義務者がいても生活保護を受給できる可能性のあるケース
  • 親族が高齢や低収入のため援助できない
  • 疎遠で長年連絡を取っていないため、支援を頼めない
  • 遠方に住んでいて現実的に同居や仕送りが難しい
  • 扶養照会の結果、支援の意思がないことが確認された

「扶養義務者の存在=援助が受けられる」とは限らないため、実際に支援が困難な場合は生活保護の対象になります。

条件③資産を保有していない

年金と生活保護を同時受給する条件3つ目は、資産を保有していないことです。これは、生活保護を受ける際の自助努力の「資産の活用」に該当します。

生活保護は、本当に生活に困窮している人を支援する制度です。そのため、預金や不動産などの資産を持っていないことが受給の条件の1つになっています。

生活保護申請時には以下のような資産をすべて調査され、資産を売却すれば生活できると判断された場合は、生活保護は受けられません

調査される資産の例
  • 預貯金
  • 土地・建物
  • 車両
  • 株式・保険・その他の金融資産 など

生活に不要と判断されるような空き家や不要な車などは「生活に充てるべき」と判断され、売却を求められますが、以下のようなケースでは例外となることもあります。

例外となるケースの例
  • 建物が老朽化しているため、解体費用の方が高く売却できない場合
  • 現在の住まいにそのまま住み続けた方が住宅扶助を支給するより支出が少なくて済むと判断される場合 など

なお、預貯金の目安は最低生活費の半額以下。最低生活費の半額を超える貯金があると、生活保護の対象から外れる可能性があります。

条件④国や自治体の制度を利用しても生活が困窮している

年金と生活保護を同時受給する条件4つ目は、国や自治体の制度を利用しても生活が困窮していることです。

生活保護は、すべての公的支援制度を活用しても最低限の生活が維持できないときに、初めて受給できる制度です。

そのため、生活保護の申請時には他の公的支援をすでに利用した上でも、なお生活が困窮していることが条件になります。

  • 生活福祉資金貸付制度:低所得世帯や高齢者世帯を対象とした、一時的な資金を無利子・低利子で借りられる制度
  • 住宅確保給付金:住まいの喪失やその恐れがある人を対象とした、家賃相当額が給付される制度
  • 母子父子寡婦福祉資金貸付金:ひとり親家庭などを対象とした、子どもの修学資金や生活資金などの貸付けを行う制度

上記のような制度を利用しても、なお生活再建が困難な場合は生活保護の対象となります。

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条件⑤働ける状態ではない

年金と生活保護を同時受給する条件5つ目は、働ける状態ではないことです。

生活保護は「自分の力では生活できない人」を支援する制度のため、働ける状態にないことも受給の条件の1つとされています。

具体的には以下のような状態にある場合に「働ける状態ではない」と判断されます。

働ける状態ではないと判断されるケース
  • 病気やケガで働ける状態ではない
  • うつ病などの精神疾患により働くことが困難である
  • 長期間の治療や療養が必要で、就労に支障が生じる

上記のような場合には、医師の診断書などを基に働けない状況であることを証明する必要があります。

ただし、65歳以上の年金受給者は、原則として働くことを求められません。一方で、65歳未満の健康で働けると判断された人は、たとえパートでも働く努力を求められる可能性があります。

なお、「病気が完治して働ける状態になった」など、状況が改善した場合は生活保護の支給が終了することもあります。

年金と生活保護を両方受給した場合のシミュレーション

年金と生活保護を両方受給した場合のシミュレーション

では、実際に年金と生活保護を両方受給した場合の金額をシミュレーションしてみましょう。

生活保護は地域や世帯構成によって異なりますが、今回は「70歳・単身世帯」の人でシミュレーションしています。

地域は厚生労働省の「生活保護制度における地域差等について」で確認できます。

■住んでいるのが「1級地-1」の場合

年金額
(月額)

生活保護費

支給なし

128,950円

20,000円

108,950円

40,000円

88,950円

60,000円

68,950円

80,000円

48,950円

100,000円

28,950円

120,000円

8,950円

130,000円

支給なし

「1級地-1」の主な地域は、東京23区・愛知県名古屋市・大阪府大阪市などの大都市が含まれます。

■住んでいるのが「2級地-1」の場合

年金額

生活保護費

支給なし

116,990円

20,000円

96,990円

40,000円

76,990円

60,000円

56,990円

80,000円

36,990円

100,000円

16,990円

110,000円

支給なし

「2級地-1」には、地方の大都市などが多く該当します。

■住んでいるのが「3級地-1」の場合

年金額

生活保護費

支給なし

110,570円

20,000円

90,570円

40,000円

70,570円

60,000円

50,570円

80,000円

30,570円

100,000円

10,570円

110,000円

支給なし

「3級地-1」には、地方の中都市などが多く該当します。

年金と生活保護を両方受給する場合の注意点

年金と生活保護を両方受給する場合の注意点

年金と生活保護を両方受給する際には、事前に把握しておくべき注意点がいくつかあります。特に注意したいのは「借金の返済」と「資産の保有」です。

申請後に「知らなかった」とならないよう、しっかり把握してから申請を検討しましょう。

生活保護を借金やローンの返済に充ててはいけない

1つ目は、生活保護を借金やローンの返済に充ててはいけないことです。

生活保護で支給されるお金は、「当面の生活費」を補うためであるため、借金やローンの返済に充てることは禁止されています

借り入れすること自体は生活保護受給中でも違法にはなりませんが、返済が困難になりやすいため、新たな借入は避けるべきとされています。

借金やローンの返済で困っている場合は、債務整理などの法的手続きを検討しましょう。

また、生活が苦しいと「将来のために生活保護費を少しずつ貯蓄しよう」と考える人もいると思いますが、大きな額の貯蓄は生活保護の減額や打ち切りにつながる可能性があるため、注意が必要です。

高額な資産を保有しないようにする

2つ目は、高額な資産を保有しないようにすることです。

生活保護を受ける人は、原則として高額な資産の保有は認められていません。

持てるもの
(生活に必要な資産)

持てないもの
(高額・不要な資産)

家電
家具
衣類
(高級品はNG)

ローンが完済された
持ち家

公共交通機関が
少ない地域での
生活に必要な車

スマートフォン
パソコン
(1台まで)

一定額以上の預貯金

不要な車

使用していない
不動産

株や債券などの
有価証券

貯蓄型保険

ブランド品
高級時計など

2台目以降の
スマートフォン
パソコン

上記にあるような日常生活に必要な資産は、生活保護受給中でも所有が認められており、スマホやパソコンは情報収集や就労支援に欠かせないため、所有が容認される傾向にあります。

一方、使用していない不動産やブランド品などの資産は、生活に困っていないと見なされるため、生活保護を受ける上では保有が認められません。

また、ローン返済中のマイホームは生活保護の支給対象外となることが多く、売却を検討する必要があります。

ケースワーカーの指導に従う

3つ目は、ケースワーカーの指導に従うことです。

生活保護を受給している間は自治体のケースワーカーと定期的に連絡を取り、助言や指導を受けながら生活の立て直しを目指すことが求められます。

ケースワーカーからは生活環境の変化に対応した支援や就労支援、社会復帰に向けたアドバイスが行われるため、真摯に受け止め指導に従いましょう。

ケースワーカーの助言や指導に従わなかったり、面談や訪問を拒否するなどの行為が続いたりすると、生活保護費の減額や支給停止になることもあるため注意が必要です。

年金と生活保護の併給に関するQ&A

年金と生活保護の併給に関するQ&A

最後に、年金と生活保護の併給に関するQ&Aをご紹介します。

年金と生活保護はどちらの方が多い?両方もらった方が得?

生活保護は、国が定める「最低生活費」に基づき必要に応じて支給されるため、年金より高い支給額になることが一般的です。

年金と生活保護を両方もらえば生活費は多くなりますが、生活保護には厳しいルールやデメリットも伴うため、両方もらうことが一概に「得」とは言い切れません

生活保護のデメリット
  • 資産保有の制限
  • 貯金や借金返済への使用制限
  • 社会的な偏見を受ける可能性

年金と生活保護を両方を受け取れる場合でも、金額だけでなく生活スタイルを検討することが重要です。

生活保護を受けている人は年金の支払いを免除される?

生活保護を受けている間は、国民年金保険料の支払いが免除されます。

ただし、生活保護の受給中は国民年金の加入資格も喪失するため、将来受け取れる年金額に反映されない期間となることも覚えておきましょう。

年金保険料免除申請制度とは?いつまで免除される?免除される人の条件は?

※4:日本年金機構|国民年金保険料の法定免除制度

遺族年金をもらいながら生活保護は受けられる?

遺族年金をもらいながらでも、生活保護を受けることは可能です。ただし、遺族年金は収入として扱われるため、遺族年金が最低生活費を上回っている場合は、生活保護は受けられません。

年金と生活保護の支給日はいつ?

年金の支給日は原則として偶数月の15日です。「2月・4月・6月・8月・10月・12月」の15日に、前々月と前月の2ヶ月分が支給されます。

生活保護の支給日は毎月5日です。ただし、1月分は前年の12月25日になります。

2025年の年金支給日はいつ?受給者が死亡した場合の対応も!

まとめ・生活保護の申請する前には制度の内容を把握することが重要!

生活保護は、収入や資産がなく、他の公的制度を活用しても生活が成り立たない場合に受けられる「最後のセーフティーネット」です。

年金を受給していても最低生活費に満たない場合は併給が可能であり、さまざまな扶助により生活の立て直しを支援してくれます。

ただし、保有できる資産が限られるなどのデメリットもあるため、制度の内容を正しく理解した上で申請を検討することが大切です。

参考資料

厚生労働省|生活保護制度
厚生労働省|生活保護制度との関係について
厚生労働省|生活保護制度における地域差等について
日本年金機構|国民年金保険料の法定免除制度

この記事の監修者

岡地 綾子 【ファイナンシャル・プランナー】

2級ファイナンシャル・プランニング技能士。 年金制度や税金制度など、誰もが抱える身近な問題の相談業務を行う。 得意分野は、生命保険・老後の生活設計・教育資金の準備・家計の見直し・相続など。

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