休業補償とは?給付額の計算方法・期間から休業手当との違いまで徹底解説!
労災保険の休業補償とは? 給付要件・金額・期間を徹底解説!
休業補償とは、労働災害による怪我や病気の療養で働けない場合の補償制度です。この記事では労災保険の休業補償の計算方法や給付期間、休日手当などの似た制度との違いや申請方法を解説します。
- 目次
- 労災保険の休業補償とは
- 休業補償とは労働災害による怪我や病気の療養で働けない場合の補償制度
- 支給要件は労働災害による怪我や病気のため働けずに賃金を受けていないこと
- 1日あたりの給付額の計算方法
- 受給期間は休業4日目から怪我や病気が治癒した日まで
- 業務災害の場合は休業初日から平均賃金の6割が補償される
- 【休業手当】【傷病手金当金】【傷病手当】休業補償に似た制度
- 会社都合で労働者を休業させた場合に企業から支給される手当【休業手当】
- 労働災害以外の理由で休業した場合に健康保険から支給される【傷病手当金】
- 求職中の怪我や病気により働けない人に雇用保険から支給される【傷病手当】
- 労災保険の休業補償の申請方法
- 休業補償に関するQ&A
- Q:自宅療養でも休業補償される?
- Q:休業補償で受け取ったお金は非課税?
- Q:派遣社員は派遣元と勤務先のどちらの証明が必要?
- Q:休業中の社会保険料はどうなる?
- Q:退職後も引き続き休業補償は受け取れる?
- まとめ・仕事ができない場合の補償制度の確認を
労災保険の休業補償とは
まずは、労災保険の休業補償の詳細を確認していきましょう。
労災保険に関してはこちらの記事も参考にしてください。
労災保険とは|加入条件や補償金額は?個人事業主でも適用される?
※1:厚生労働省|休業(補償)等給付傷病(補償)等年金の請求手続
休業補償とは労働災害による怪我や病気の療養で働けない場合の補償制度
休業補償とは、労働災害による怪我や病気の療養のため働けない場合の補償制度です。労働者が業務もしくは通勤中に起こった労働災害により怪我や病気を被り、その療養のために働けない場合に補償されます。
休業の原因が業務災害の場合は「休業補償給付」、通勤災害の場合は「休業給付」が支給されますが、両者の違いは名称だけで内容に違いはありません。
この記事内でも以降は「休業補償」に統一して解説いたします。
支給要件は労働災害による怪我や病気のため働けずに賃金を受けていないこと
休業補償の支給要件は以下の3点をすべて満たす場合です。
休業補償の支給要件
- 業務災害または通勤災害による怪我や病気の療養のためであること
- 働ける状態でないこと
- 賃金を受けていない日であること
上記の3点は必須条件になるため、覚えておきましょう。
1日あたりの給付額の計算方法
1日あたりの給付額は、以下の方法で計算します。
1日あたりの休業補償の金額(合計80%)
- 休業補償給付:給付基礎日額の60%
- 休業特別支給金:給付基礎日額の20%
給付基礎日額は「労働災害の対象になる事故が発生した日の直近3ヶ月の賃金総額÷直近3ヶ月の総日数」で計算します。なお、合計賃金には以下のものが含まれます。
賃金に含まれるもの
- 基本賃金
- 残業代
- 通勤手当
- 扶養手当
- 住宅手当 など
賞与は含まれないため、注意してください。
1日あたりの給付額の計算例
以下の条件で働いていた人の1日あたりの給付額を計算してみましょう。
条件
- 労働災害が発生した日の直近3ヶ月の賃金総額:84万円
- 労働災害が起こった日:7月1日
給付基礎日額は「84万円÷(30日+ 31日+ 30日)」=9230.76…。1円未満の端数は1円に切り上げるため、給付基礎日額は9,231円になります。
1日あたりの休業補償の金額は「9,231円×60%」=5,538.6。1円未満の端数は切り捨てになるため、1日あたりの休業補償の金額は5,538円です。
1日あたりの休業特別支給の金額は「9,231円×20%」=1,846.2。1円未満の端数は切り捨てになるため、1日あたりの休業補償の金額は1,846円です。
1日あたりの休業補償と休業特別支給を合計すると「5,538円+1,846円」=7,384円。1日あたりの給付額は7,384円になります。
ダブルワークの場合は2カ所の合計賃金から計算する
多様な働き方が認められている現在、ダブルワークをしている人も多いでしょう。ダブルワークをしている場合、給付基礎日額を計算するための合計賃金は、すべての会社の賃金合計で計算します。
受給期間は休業4日目から怪我や病気が治癒した日まで
休業補償の受給期間は、休業4日目から怪我や病気が治癒した日までになります。休業初日から3日間は待機期間となるため、休業補償は受け取れません。3日間の待機期間には、土日祝日などの公休日や有給休暇も含まれます。
なお、労働基準法では、怪我や病気の原因が業務災害の場合に限り、企業が初日から平均賃金の60%を補償しなければならないとしています。
また、以下に該当する場合は休業補償給付から傷病補償年金へ移行することになります。
休業補償給付から傷病補償年金に移行する条件
- 労働災害による怪我や病気の療養開始後、1年6ヶ月を経過した日またはその日以後に怪我や病気が治っていない
- 障害の程度が傷病等級表の第1〜3級に該当する場合
なお、休業補償給付の受給を開始してから1年6ヶ月が経過した時点で傷病等級第1〜3級に該当しない場合は、怪我や病気が治癒するまで引き続き給付が継続されます。
業務災害の場合は休業初日から平均賃金の6割が補償される
先ほど、「労働基準法では怪我や病気の原因が業務災害の場合に限り、企業が初日から平均賃金の60%を補償しなければならない」とお伝えしました。これが、「労働基準法の休業補償」です。
第七十五条
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、または必要な療養の費用を負担しなければならない。
② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。
第七十六条
労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
※出典:「労働基準法第七十五条第七十六条|e-Gov法令検索」
その結果、怪我や病気の原因が業務災害の場合は、労働基準法の休業補償があるため待機期間が無くなり、休業初日から補償されることになります。
【休業手当】【傷病手金当金】【傷病手当】休業補償に似た制度
休業補償と並んで「休業手当」という言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか?
休業に関する手当は、休業補償だけでなく休業手当や傷病手当金などがあります。ここでは、休業補償に似た制度の内容を解説します。
会社都合で労働者を休業させた場合に企業から支給される手当【休業手当】
休業手当とは、会社都合で労働者を休業させた場合に支給される手当。企業が労働者に支払います。
休業手当が給付される主なケース
休業手当が給付されるのは以下のようなケースです。
休業手当が給付されるケース
- 経営不振による自宅待機
- 社内設備の不備による休業
- 作業に必要な人員不足による休業
- 監督官庁の要請による自宅待機
- 企業の過失による休業
- 任せる業務がないことによる休業 など
ただし、自然災害による休業など、企業が最大の注意や努力をしても避けられないケースの場合は休業手当の支給対象にはなりません。
休業補償との主な違い
休業補償と休業手当の主な違いは以下の通りです。
休業補償 | 休業手当 | |
---|---|---|
支給要件 | 労働災害による | 会社都合で労働者を |
支払い主 | 労災保険 | 企業 |
1日あたりの | 「休業補償給付60%」 | 平均賃金×60%以上 |
休業補償は労働災害による怪我や病気の療養で働けない場合に労災保険から給付金を受け取れる制度、休業手当は会社都合で労働者を休業させた場合に企業から手当を受け取れる制度、と覚えておきましょう。
1日あたりの給付額
休業手当の1日あたりの給付額は、「平均賃金×60%以上」です。平均賃金は以下の方法で計算します。
平均賃金の計算方法
- 休業前直近3ヶ月の合計賃金÷3ヶ月の暦日数
平均賃金には以下のものが含まれます。
賃金に含まれるもの
- 基本賃金
- 残業代
- 通勤手当
- 扶養手当
- 住宅手当 など
なお、退職金や見舞金などの臨時的に支払われた手当や、賞与などの3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は、計算上の賃金に含まれません。
新型コロナウイルス感染症の場合はどんな扱いになる?
新型コロナウイルス感染症やインフルエンザが流行すると、企業が自主的に休業するケースもあるでしょう。その場合は休業手当の対象になるのでしょうか?
感染症などが原因で休業する場合は、休業の判断をした理由により休業手当の対象になるか否かが決まります。
該当するケース | 該当しないケース |
---|---|
|
|
すべてのケースが休業手当の対象になる訳ではないため、注意が必要です。
労働災害以外の理由で休業した場合に健康保険から支給される【傷病手当金】
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が療養のために仕事を4日以上休んだ場合に健康保険から支給される手当です。なお、任意加入被保険者は対象外になるので注意してください。
※4:全国健康保険協会:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
支給要件
傷病手当金は以下の条件すべてに該当する場合に支給されます。
傷病手当金の支給要件
- 仕事を休んでいる原因が労働災害以外の怪我や病気による療養である
- 労務に服することができないこと
- 連続して4日以上仕事を休んでいる
傷病手当金は、上記の要件を満たしている場合に4日目から支給されます。なお、3日間の待機期間には土日祝日などの公休日や有給休暇も含まれます。
ただし、休んでいる間に傷病手当金より多い額の報酬を受け取った場合、傷病手当金は支給されません。
1日あたりの給付額
傷病手当金の1日あたりの給付額は、以下の方法で計算します。
傷病手当金1日あたりの給付金の計算方法
- ①:支給開始日の以前12ヶ月間の標準報酬月の平均額÷30日(10円未満四捨五入)
- ②:①×2/3(1円未満四捨五入)
怪我や病気が発生した日以前の勤務期間が12ヶ月未満の場合は、以下のいずれか少ない金額で計算します。
いずれか少ない金額
- 直近の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 健康保険全被保険者の平均標準報酬月額
なお、同一の怪我や病気に起因する障害厚生年金または障害手当金と、傷病手当金の両方の支給要件に該当する場合は、原則として傷病手当金は支給されません。
また、労働災害による怪我や病気に起因する休業補償と、傷病手当金の両方の支給要件に該当する場合も同様です。
ただし、障害厚生年金や休業補償の金額が傷病手当金より少ない場合は、差額を受け取れます。障害手当金については、障害手当金の金額を傷病手当金の日額で除して得た日数を経過した後に受け取れます。
傷病手当金の給付期間の上限は、支給開始日から通算して1年6ヶ月です。ただし、支給開始日が2020年7月1日以前の場合は、支給開始日から最長1年6ヶ月になります。
求職中の怪我や病気により働けない人に雇用保険から支給される【傷病手当】
傷病手当とは求職中の怪我や病気により働けない状況になった人に対する手当。雇用保険から支給されます。
以降の解説は、雇用保険の基本手当の受給要件を満たしていることを前提に解説しています。雇用保険の基本手当の受給要件に関しては、以下の記事をご参考ください。
失業保険のもらい方を徹底解説!自己都合と会社都合の違いや期間も
一般的に「失業保険」と呼ばれることが多い雇用保険の基本手当は、働く意思のある人や働ける状況にある人が安心して求職活動ができることを目的に給付される手当です。
そのため、怪我や病気で働けない状況の人は、原則として基本手当を受給できません。代わりに受給できるのが「傷病手当」です。
支給要件
傷病手当は以下の条件すべてに該当する場合に支給されます。
傷病手当の支給要件
- ハローワークで求職の申込手続きをしていること
- 求職の申込みをした後に怪我や病気のために継続して15日以上職業に就くことができないこと
- 給付制限期間中及び待機期間中でないこと
- 傷病手当金・休業補償、またはこれらに相当する給付のいずれも受ける資格がないこと
傷病手当は基本手当の支給要件を満たしていることが前提のうえ、傷病の認定を受けることが必須条件です。
怪我や病気のために職業に就くことができない期間が14日以内の場合は基本手当、15日以上の場合は傷病手当が支給されます。
1日あたりの給付額
傷病手当の1日あたりの給付額は、基本手当日額と同じ金額です。
基本手当日額は「賃金日額×給付率」で計算します。賃金日額は「退職前6ヶ月の賃金合計÷180」です。給付率は賃金日額や年齢により異なり、45〜80%の範囲内で決定されます。
なお、傷病手当の総額は「(基本手当×所定給付日数)−(すでに受け取った基本手当の金額)」で計算できます。
基本手当日額についての詳細は、以下の記事をご参考ください。
自己都合退職の失業保険はいつからもらえる?すぐもらう方法も!
労災保険の休業補償の申請方法
労災保険の休業補償は以下の流れで申請します。
申請の流れ
- 「休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書」または「休業給付支給請求書」を準備する
- 事業主・医療機関のそれぞれから請求書に証明をもらう
- 所轄の労働基準監督署に請求書を提出する
- 労災認定されると給付金が振り込まれる
なお、労災保険に関する請求書は、厚生労働省のホームページでダウンロードからダウンロード可能です。
休業補償に関するQ&A
最後に、休業補償に関するQ&Aをご紹介します。ぜひ、参考にしてください。
Q:自宅療養でも休業補償される?
A:医師から「就業不能である」ことの証明がある場合は、たとえ自宅療養でも休業補償給付は受け取れます。
Q:休業補償で受け取ったお金は非課税?
A:休業補償で受け取ったお金は、非課税のため所得に含まれません。ただし、休業手当は給与所得に該当するため課税対象に含まれます。
※6:国税庁|No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係
Q:派遣社員は派遣元と勤務先のどちらの証明が必要?
A:派遣社員が休業補償の申請手続きをする場合の事業主の証明欄には、勤務先ではなく派遣会社の証明が必要です。
Q:休業中の社会保険料はどうなる?
A:休業中でも社会保険料は発生するため、加入者が支払わなければなりません。ただし、休業補償の給付額から自動で差し引かれる訳ではないため、会社から指定された方法で支払う必要があります。
Q:退職後も引き続き休業補償は受け取れる?
A:労働災害による傷病が原因で仕事ができない状態が続いている限り、退職後も引き続き休業補償は給付されます。
まとめ・仕事ができない場合の補償制度の確認を
休業補償とは、業務災害による怪我や病気の療養のため働けない場合の補償制度。1日あたり「給付基礎日額の80%」が給付されます。
また、休業補償と似たような制度には、会社都合で労働者を休業させた場合に企業から支給される「休業手当」や、労働災害以外の理由で休業した場合に健康保険から支給される「傷病手当金」などがあります。
いずれも、仕事ができない場合の経済的リスクを軽減するための重要な制度です。怪我や病気はいつ起こるかわかりません。この機会に、仕事ができない場合の補償制度をしっかり確認してみてはいかがでしょうか?
参考資料
厚生労働省|休業(補償)等給付傷病(補償)等年金の請求手続
厚生労働省|副業・兼業の促進に関するガイドライン
厚生労働省|休業手当の計算方法
全国健康保険協会:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
厚生労働省|基本手当について
国税庁|No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係
この記事の監修者
新名範久 【税理士・社会保険労務士】
「新名範久税理士・社会保険労務士事務所」所長。 建設、不動産、理美容、小売、飲食店、塾経営といった幅広い業種の法人や個人の税務・会計業務を行う。社会保険労務士として、法人の社会保険業務も担当。1人でも多くの人に、税金に対する理解を深めてもらいたいと考え、業務を行っている。 税理士、社会保険労務士、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、測量士補、CFP、FP技能検定1級、年金アドバイザー2級、証券外務員1種などの資格を保有。