退職勧奨とは|されたらどうする?会社都合退職になる?違法になるケースとは?
退職勧奨をされたらどうすればいい? パワハラがあった場合は違法になる?
退職勧奨とは企業が労働者に退職を勧めることです。この記事では、退職勧奨をされた場合の対処法や違法となるケース、解雇との違いや失業保険では会社都合退職になるのか、などを解説します。
- 目次
- 退職勧奨とは
- 退職勧奨とは企業が労働者に退職を勧めること
- 退職勧奨と解雇の違いは労働者が退職することに合意しているか否か
- 失業保険での扱いは会社都合退職になる
- 退職勧奨されたらどうすればいい?拒否できる?
- 労働者は退職を拒む権利がある
- ①退職勧奨された理由を確認する
- ②企業が提示する条件を確認する
- ③退職するか否か検討する
- ④退職の決断をした場合は【退職合意書】を作成する
- 退職勧奨が違法となるのはどんなケース?
- 退職強要に該当するケース
- パワハラに該当するケース
- 違法と認められた場合の企業の対応
- 退職勧奨に関するQ&A
- Q:退職勧奨を受け入れる場合退職届は必要?
- Q:自己都合退職扱いにされた場合は後から会社都合退職に変更できる?
- Q:退職勧奨を受け入れた場合でも退職金はもらえる?
- Q:退職勧奨されてから退職するまでの期間はどれくらい?
- まとめ・労働者には退職勧奨を拒否する権利がある
退職勧奨とは
企業の一員として働いているといろいろなことが起こるでしょう。退職勧奨(たいしょくかんしょう)もその1つ。まずは、退職勧奨とはどのような行為なのかを確認していきましょう。
退職勧奨とは企業が労働者に退職を勧めること
退職勧奨とは企業が労働者に退職を勧めることです。企業は労働者に退職を促しますが、退職を決めるのはあくまでも労働者本人。労働者の自発的な退職を促す行為を意味します。俗に「肩たたき」と呼ばれることもあります。
退職勧奨をされた労働者は、自分の意思で退職するか否かを判断します。受け入れなければならない義務はありません。
退職勧奨と解雇の違いは労働者が退職することに合意しているか否か
企業から退職を促されると聞いて「解雇」を思い浮かべる人もいるでしょう。しかし、解雇は企業から一方的に退職を通告されることであるため、自分の意思で退職するかどうかを決められる退職勧奨とは異なります。
つまり「労働者が退職することに合意しているか否か」が、両者の大きな違いになります。
企業が労働者を解雇する場合は法律上のさまざまな規制が適用されるため、トラブルが発生する可能性が高くなります。辞めてもらいたい社員がいる場合でも、労働者とのトラブルを避けるために解雇ではなく退職勧奨を行う企業は多いです。
失業保険での扱いは会社都合退職になる
退職勧奨を受け入れて退職した場合、失業保険での扱いは会社都合による退職として、特定受給資格者に該当すると定められています。
失業保険とは、失業状態の人が安定した生活を送りながら就職活動が進められるように、雇用保険から給付されるお金のこと。正式名称は「雇用保険の基本手当」ですが、通称として「失業保険」と呼ばれることが多いです。
失業保険を受け取れる期間や条件は、退職理由が会社都合なのか自己都合なのかにより異なります。
例えば、会社都合退職の場合は失業保険の所定給付日数は最大330日ですが、自己都合の場合は最大150日です。
また、会社都合退職の場合の受給開始時期は「受給資格決定日から7日間の待機期間の翌日」ですが、自己都合退職の場合は「受給資格決定日から7日間の待機期間+原則2ヶ月の給付制限」後になります。
なお、ここで解説する自己都合退職とは、正当な理由があり退職した「特定理由離職者」を除きます。
このように、失業保険での扱いは退職理由により異なるため、会社都合退職になるか自己都合退職になるかは重要なポイントなのです。
(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
※1:出典:「ハローワークインターネットサービス|特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_range.html
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退職勧奨されたらどうすればいい?拒否できる?
では、退職勧奨された労働者はどのような対応をとればいいのでしょうか?ここでは、退職勧奨された場合の対処法を確認していきましょう。
労働者は退職を拒む権利がある
覚えていてほしいことは、「労働者には退職を拒む権利がある」ということです。退職勧奨を受け入れるかどうかは任意です。企業から「退職してみては?」と促されても、退職する意思がない場合は拒否しても問題ありません。
急に退職を勧められて気が動転する人も多いかもしれませんが、落ち着いて以下の行動をとりましょう。
①退職勧奨された理由を確認する
まずは、退職勧奨された理由を確認してください。
■退職勧奨の理由例
労働者の能力不足 |
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労働者の勤務態度が悪い |
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経営不振による人員整理 |
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退職勧奨の理由が経営不振による人員整理の場合は、現在の業績やどれくらいの人が退職勧奨をされているのかも重要な確認ポイントです。倒産するリスクが高い場合は退職勧奨を受け入れる方が良いケースもあります。
理由が自分にある場合は、企業が主張する内容が事実かどうかを振り返ってみましょう。
②企業が提示する条件を確認する
次に、退職勧奨を受け入れた場合の条件を確認しましょう。退職勧奨を行う企業は、退職勧奨を受け入れる場合の条件を提示してくるケースが多いです。
確認ポイント
- 退職金の有無と金額
- 退職の時期
- 有給休暇の消化方法 など
退職勧奨を受け入れて退職する場合、退職金制度がない企業でも退職金と同様の手当の支払いがあるケースもあります。
いずれにしても、提示された条件をしっかり確認し、納得いくまで話し合うことが大切です。
③退職するか否か検討する
理由と条件を確認したら、退職をするかしないかを検討します。もちろん、その場で返事を出す必要はありません。
退職や転職は人生を左右する大きな出来事。企業には「考えさせてください」と伝え、しっかり検討し、自分で決断しましょう。
④退職の決断をした場合は【退職合意書】を作成する
検討した結果、退職の決断をした場合は「退職合意書」を作成します。
退職合意書とは、企業と労働者の間で退職について合意した内容を記載した書類のこと。退職勧奨を受け入れる場合は、後からトラブルになることを防ぐためにも退職合意書を作成することをおすすめします。
退職合意書に記入する内容
退職合意書には主に以下の内容を記入します。
退職合意書に記入する内容
- 退職に合意したこと
- 退職予定日
- 退職理由
- 退職金の有無
- 有給休暇の消化方法
- 貸与品の返却方法 など
必ず記入しなくてならないのは退職に合意したことです。企業と労働者の間で退職の合意があった旨と退職予定日を記載してください。
また、退職理由も重要です。本来、退職勧奨を受けての退職は会社都合退職になります。確認しないと自己都合退職扱いにする企業もあるため、会社任せにしないように注意してください。
合わせて、退職金の有無・有給休暇の消化方法・貸与品の返却方法など、後ほどトラブルになりやすいポイントを記入することも重要です。
同時に、転職活動も始めましょう。
退職勧奨が違法となるのはどんなケース?
退職勧奨自体は違法行為ではありません。しかし、企業の進め方によっては、退職勧奨が違法になるケースもあります。自分や知人が退職を勧められ、「これって違法ではないの?」と感じたことのある人もいるのではないでしょうか?
ここでは、退職勧奨が違法となるケースをご紹介します。違法と認められた場合は退職の合意が無効となる場合もあるので、ぜひ参考にしてください。
退職強要に該当するケース
違法となる1つ目のケースは、退職強要に該当する場合です。
退職勧奨を受けた労働者は、自分自身の意思で退職するか否かを決断しなければなりません。企業はあくまでも退職を勧めるだけ。そのため、企業が退職を強要したとみなされる場合は違法になる可能性があります。
退職強要に該当する主なケース
- 退職を断ったにも関わらず、何度も繰り返し退職勧奨をされた
- 長時間、威圧的な言い方で退職勧奨をされた
- 「労働者は1人・企業側は複数人」のような圧迫面談をされた
上記の他にも「退職届を提出しなければ解雇する」や「今、退職しないと退職金は支払わない」と言われる行為も退職強要に該当します。
パワハラに該当するケース
違法となる2つ目のケースは、パワハラに該当する場合です。企業側からパワハラを受け、労働者が耐えられなくなり退職を決意した場合は、違法になる可能性があります。
厚生労働省では、企業は以下の内容を行ってはならないことを発表しています。
■パワハラに該当するケース
身体的な攻撃 |
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精神的な攻撃 |
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人間関係からの |
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過大な要求 |
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過小な要求 |
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個の侵害 |
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上記の他にも、「このまま会社に残っても居場所はない」や「お前は本当に何の役にも立たない」などの発言もパワハラに該当する可能性があります。
違法と認められた場合の企業の対応
では、退職勧奨のための行為が違法と認められた場合は、企業はどのような対応を行うのでしょうか?具体的には、労働者に対し以下の内容を行う必要があります。
違法と認められた場合の企業の対応
- 退職の合意は無効となるため、労働者を復職させなければならない
- 離職していた期間分の賃金を支払わなければならない
民法でも以下のように定められています。
第七百九条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
※:出典「e-Gov法令検索 民法第709条」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089#Mp-At_709
違法と認められた場合、労働者は復職できたり離職期間中の賃金が受け取れたりする可能性があります。
合意がなく退職に追い込まれた場合は違法となる可能性があるため、各都道府県の労働局や労働基準監督署、弁護士などに相談してみましょう。
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退職勧奨に関するQ&A
最後に退職勧奨に関するQ&Aをご紹介します。ぜひ、参考にしてください。
Q:退職勧奨を受け入れる場合退職届は必要?
A:退職届は必ずしも必要ではありません。
法律上、退職する際の退職届の提出は必須ではありません。しかし、企業からは退職届を提出するよう求められるケースも多いです。その場合、退職届を提出しても問題ありませんが、退職理由は「会社都合退職」であることを明記してください。
「失業保険での扱いは会社都合退職になる」でお伝えした通り、会社都合退職と自己都合退職では失業保険の手続きをするうえで大きな違いが発生します。
退職勧奨を受け入れて退職した場合でも自己都合退職扱いにしたがる企業も存在するため、注意しましょう。
可能であれば、退職合意書の作成をおすすめします。退職勧奨により退職した内容や退職条件を明記しておくことで、企業とのトラブル発生が防げるためです。
Q:自己都合退職扱いにされた場合は後から会社都合退職に変更できる?
A:ハローワークに異議申立をして会社都合と認められれば、変更可能です。
企業から自己都合退職扱いにされていたことに後から気づいた場合は、ハローワークに離職理由の異議申立を行いましょう。
異議申立を行うとハローワークが調査を行います。調査の結果、会社都合退職であると認められた場合は、会社都合退職として取り扱ってもらえます。
異議申立を行う際には、退職勧奨に関する書類やメール、退職勧奨を受けた際の面談の録音などを提出すると優位に進められるため、万一のために証拠として残しておくことをおすすめします。
Q:退職勧奨を受け入れた場合でも退職金はもらえる?
A:退職金制度のある企業で支給要件を満たしていれば、退職金は支給されます。
また、退職勧奨を受け入れて退職する場合、退職金制度のない企業でも退職金と似たような手当が支給される場合もあります。企業からの退職条件をしっかり確認することが重要です。
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Q:退職勧奨されてから退職するまでの期間はどれくらい?
A:退職勧奨されてから退職するまでの期間に決まりはありません。
退職日に関しては、企業との話し合いの際に自分の意見を伝えましょう。納得いく転職先を見つけるためにも、余裕のある日程を組むよう心がけてください。
なお、企業から「1ヶ月以内に退職しなければ解雇する」などと言われた場合は、不当解雇に該当する可能性があります。
まとめ・労働者には退職勧奨を拒否する権利がある
退職勧奨とは企業が労働者に退職を勧めること。企業は労働者に退職を促すだけで、退職を決めるのはあくまでも労働者本人です。
退職勧奨を受け入れた場合の退職理由は会社都合になります。退職理由は失業中に受け取れる可能性のある失業保険の給付要件に関係するため、自己都合退職にされないように注意が必要です。
また、退職強要やパワハラが原因で労働者が退職を決意した場合は、企業の行為が違法に該当する可能性もあります。
労働者には退職を拒否する権利があります。退職勧奨をされたからといって無条件で退職を受け入れず、自分が納得できる道を選んでください。
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この記事の監修者
新名範久 【税理士・社会保険労務士】
「新名範久税理士・社会保険労務士事務所」所長。 建設、不動産、理美容、小売、飲食店、塾経営といった幅広い業種の法人や個人の税務・会計業務を行う。社会保険労務士として、法人の社会保険業務も担当。1人でも多くの人に、税金に対する理解を深めてもらいたいと考え、業務を行っている。 税理士、社会保険労務士、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、測量士補、CFP、FP技能検定1級、年金アドバイザー2級、証券外務員1種などの資格を保有。