今すぐできる!家庭内のヒートショック対策
冬のお風呂場などで高齢者に起こりやすい「ヒートショック」は、死亡事故につながるおそれがある、大変危険な現象です。今回は、家庭の中で今すぐできる「ヒートショック対策」をお伝えします。
- 目次
- 冬の家庭内で起こりやすいヒートショックとは
- ヒートショックが要因の溺死者の9割強は65歳以上の高齢者
- 冬場のヒートショックが起こりやすいのは日本の家屋構造が要因
- ヒートショックになりやすい人の特徴
- ヒートショックを起こしやすい環境・場所
- 寒い地域ほど寒冷地仕様の住宅が多いため、ヒートショック事故が少ない
- お風呂場・脱衣所・入浴時のヒートショック対策
- 脱衣所・洗面所・浴室に暖房機器をつける
- タイルにマットやスノコを敷いて底冷えを抑える
- 湯船に入るときは、かけ湯を必ず行う
- 長湯をせず、入浴前後に水分補給を十分行う
- 入浴前の食事や飲酒は控える
- 熱いお湯に入らない
- 湯船から急に立ち上がらない
- 入浴時は家族に声をかける
- 夜中のトイレにおけるヒートショック対策・グッズ
- トイレや廊下にも暖房器具を設置する
- マット、便座シート、便座カバー、ドアノブカバーなどで冷え防止
- スリッパも冬仕様に衣替え
- 窓の防寒対策
- まとめ:これからの季節はとくにご用心!
冬の家庭内で起こりやすいヒートショックとは
ヒートショックとは、急激な温度の変化によって血圧が乱高下したり、脈拍が変動したりする現象です。
寒暖差の激しい冬場の屋内でもっとも起こりやすい現象で、場合によっては、脳内出血や大動脈解離、心筋梗塞、脳梗塞などの病気を発症するおそれもあります。
ヒートショックをもっとも起こしやすいのは、寒い脱衣所やお風呂場から、温かい浴槽に入る「入浴時」などで、ほかにも、温かい布団から寒いトイレに移動をして用を足す「夜中のトイレ」も危険度が高いと考えられています。
家庭内だけでなく、屋外でもヒートショックが起こる危険はあります。
温泉施設などにある露天風呂への入浴や、冷暖房が十分に効いた車や電車の乗り降りの際にも注意が必要です。
また、ヒートショックが原因で起こる家庭内の死亡事故として、溺死や溺水には十分気をつけなければいけません。
家庭内での溺死・溺水事故は、交通事故死の倍にのぼることがわかっています(※)。
※令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況|厚生労働省 第7表 死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口10万対)より
ヒートショックが要因の溺死者の9割強は65歳以上の高齢者
高齢者が家庭内で入浴中に溺死する事故はなかなか無くなりません。
厚生労働省が公開している2021年の人口動態統計で、浴槽内で溺死・溺水した人の年齢層を見ると、93.38%が65歳以上の高齢者であり、そのうち58.45%が80歳以上であることがわかりました(※)。
高齢になると、血圧を正常に保つ機能が低下するため、寒暖差が激しい環境では血圧が乱高下して体調不良を起こしやすくなり、そのまま意識を失ってしまうおそれもあります。
このような状態が入浴中に起こると、溺水事故につながってしまうのです。
※令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況|厚生労働省 保管統計表 死亡 死因 第1表 死亡数,死因(死因基本分類)・性・年齢(5歳階級)別(ICD-10コード V~Y、U)より
冬場のヒートショックが起こりやすいのは日本の家屋構造が要因
消費者庁によると、溺水が原因の死亡事故の発生場所は、家や居住施設の浴槽における事故が多く、11月から4月の寒い時期に多発し、とくに厳冬期ともいえる12月から1月に集中して起こる傾向にあります(※)。
これは日本の家屋の構造上、冬場に室温の差が出やすいからだと考えられます。
世界の国々では、断熱性や気密性を高めた住宅のエコ化が進んでいますが、日本の住宅はかなり遅れを取っており、室内のヒートショック事故が非常に起こりやすいのが現状です。
※自宅の浴槽内での不慮の溺水事故が増えています - 消費者庁
ヒートショックになりやすい人の特徴
ヒートショックになりやすい人の特徴としては、下記のようなものが挙げられます。
該当する人は、のちほどご紹介するヒートショック対策を十分に取るようにしてください。
- 65歳以上の高齢者
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化を起こしやすい人
- 肥満、睡眠時無呼吸症候群、不整脈の人
参考資料
2月 しっかり予防!冬季のヒートショック | 健康サポート | 全国健康保険協会
高血圧に関連した記事
ヒートショックを起こしやすい環境・場所
ヒートショックは、冬場の家屋の中にできた「寒暖差」が要因で起こりやすくなります。
日本の家屋の多くは気密性や断熱性が低く、冬場は暖気が家全体に行き渡っていないことが多いのです。
もっともヒートショックを起こしやすい家庭内の場所は、浴槽、浴室、脱衣所、洗面所などのお風呂場周りで、次に多いのがトイレです。
浴室の中がまだ十分に温まっていない一番風呂なども危険ですので、体にかけ湯などをしてヒートショックを防ぎましょう。
寒い地域ほど寒冷地仕様の住宅が多いため、ヒートショック事故が少ない
ヒートショックによる事故は、寒い地域でよく発生すると思われがちです。
しかし寒い地域ほど、厳しい寒さに備えて断熱性の高い家の構造になっており、住民の寒さへの意識も高く、対策をしっかり取っている人が多いこともあり、ヒートショックの発生率は少ないそうです。
北海道では、住宅や建築物に義務づけられている「省エネルギー基準」(省エネ基準)が非常に厳しいため、多くの住宅ではヒートショックが起きにくくなっています。
また、東北や関東甲信、北陸、中部の中でも寒さが厳しい地域には、北海道ほどではないものの、厳しい省エネ基準が適用されています。
寒冷地に建てられた宿泊施設で、断熱性が高い樹脂サッシやデュアル、トリプルなどの複層ガラスが窓に使用されているのを見たことがある人もいるのではないでしょうか。
東京都を例に取ると、下記のように気温や天候によって5つの地域区分に分かれており、数字が小さい地域ほど、建築物の省エネ基準は厳しくなります。
<東京都の省エネ基準の地域区分(※1)>
- 地域区分4:檜原村、奥多摩町
- 地域区分5:青梅市、羽村市、あきる野市、瑞穂町、日の出町
- 地域区分6:23区、上記以外の市
- 地域区分7:小笠原村以外の島しょ地域
- 地域区分8:小笠原村
なお、省エネ基準は年々厳しくなっており、2016(平成28)年には、新たに「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)が制定されました(※2)。
つまり、省エネ基準の地域区分の数値が小さい地域で、2016年以降に建設された建物の内部であれば、ヒートショックが起こる確率は低いと考えられます。
また、「日本気象協会 tenki.jp」では、ヒートショック予報を毎日発表しています(※3)。
ヒートショックは住宅環境による影響が大きいものですが、入浴時の目安として予報内容を意識しておくといいでしょう。
参考資料
※1:地域区分新旧表 - 国土交通省
※2:建築物省エネ法の概要 - 国土交通省
※3:ヒートショック予報 - 日本気象協会 tenki.jp
お風呂場・脱衣所・入浴時のヒートショック対策
根本的なヒートショック対策として最適なのは、新築やリフォーム工事などで住宅を高気密・高断熱にして全館空調などを行い、室温をなるべく均等にすることですが、莫大な建築費や工事費などがかかってしまいます。
そこで、大規模な工事以外の「今すぐできるヒートショック対策」の有効な方法をご紹介します。
日々のヒートショック対策に、ぜひ役立ててください。
脱衣所・洗面所・浴室に暖房機器をつける
服を脱ぎ着する脱衣所や洗面所、浴室内に暖房器具を設置し、入浴前に室内を暖めておくことで、場所ごとの寒暖差がなるべく生まれないようにします。
浴室に暖房器具を設置できない場合は、お湯を浴槽に入れるときにシャワーから給湯したり、浴槽に貯まったお湯をかき混ぜて蒸気を充満させたりして、できるだけ浴室内を暖め、温度差が小さくなるように工夫しましょう。
タイルにマットやスノコを敷いて底冷えを抑える
浴室の床がタイルの場合は、冷えをなるべく抑えるため、マットやスノコを敷くことをおすすめします。
湯船に入るときは、かけ湯を必ず行う
冷えた体のまま、湯船にいきなり入るのは大変危険です。
お風呂場に入ったら、かけ湯やシャワーなどで体にお湯をかけ、お湯の温度に体を慣れさせ、徐々に体温を上げるようにします。
かけ湯は心臓から遠い手や足からかけていき、次いで肩や背中にもかけ、体全体が十分に温まったと感じたら、ゆっくりと湯船に入ります。
長湯をせず、入浴前後に水分補給を十分行う
お風呂に入ると発汗で体の水分が不足するため、血液が濃くなって血流が悪くなり、体調不良を起こしやすくなります。
汗をだらだらかくほど長湯はせずに、お湯の温度は41度以下に設定し、入浴時間は10分までを目安に入り、入浴前後には、しっかり水分を摂るようにしましょう。
入浴前の食事や飲酒は控える
入浴前に食事を摂ると、消化不良を起こしやすく、戻しやすくなることもありますので、控えるか、少量にしておくことをおすすめします。
食事は入浴後に、体のほてりがおさまってからがいいでしょう。
また、飲酒後の入浴も血管や心臓に大きな負担がかかって大変危険ですので、入浴前のアルコールは控えてください。
熱いお湯に入らない
42度以上の熱いお風呂に入るのが好きな人は要注意です。
42度で10分間入浴すると、体温は38度近くに達し、高体温等による意識障害で浴槽から出られなくなったり、浴槽内にしゃがみ込んだりして溺水してしまうおそれがあるからです。
また、熱いお湯に浸かると、一気に血圧が上がり、血管や心臓には大きな負担がかかってしまいます。
お湯の温度は、血圧に影響が出づらい38度から41度くらいがおすすめです。
湯船から急に立ち上がらない
湯船から出ようと急に立ち上がると、体にかかっていた水圧がなくなり、血管が一気に拡張するため、脳への血液循環が減少する「起立性低血圧」という貧血状態に陥ることがあります。
めまいや立ちくらみ、場合によっては吐き気などをもよおし、転倒してケガをするおそれもあります。
湯船から出る際は、浴槽のへりや手すりなどにつかまって、ゆっくり体を起こしながら立ち上がるようにしてください。
参考資料
難病情報センター 用語集(「起立性低血圧」より)
入浴時は家族に声をかける
入浴時に異変があった場合、早い段階で家族が気づけば、事故も未然に防ぐことができます。
入浴前に「今からお風呂に入るね」などと声をかけ、いつもより入浴時間が長い場合は浴室に声をかけてもらうなどして、異変に気づきやすい環境を整えましょう。
お風呂場の給湯パネルに「呼び出しボタン」などがついている場合は、ぜひ活用してください。
夜中のトイレにおけるヒートショック対策・グッズ
夜中のトイレでもヒートショックが起こる可能性はありますので、用心が必要です。
トイレでのヒートショック事故を防ぐための方法も確認していきましょう。
夜のトイレや中途覚醒などに関連した記事
トイレや廊下にも暖房器具を設置する
トイレや廊下にも暖房器具の設置をおすすめします。電気式のファンヒーターなどは、スイッチを入れた瞬間からすぐに温まりますし、火災事故になるおそれも少ないでしょう。
また、暗闇での転倒事故を防止するため、廊下には常夜灯をつけておくと安心です。
マット、便座シート、便座カバー、ドアノブカバーなどで冷え防止
床が冷たい場合はマットを敷き、夜間は便座の暖房をオンにしておきましょう。
暖房機能がついていない便座にはシートと便座カバーをつけ、ドアノブが冷たい場合はドアノブカバーもつけておくと安心です。
スリッパも冬仕様に衣替え
トイレの中で使うスリッパも、つるっとした夏仕様のものから、毛足が長くふかふかした冬仕様のものに変えておきます。
窓の防寒対策
高断熱窓(樹脂サッシ、デュアル・トリプルガラス)に変えられるとベストですが、内窓を設置して二重窓にしたり、ポリカーボネートやプラダンなどの板や、プチプチ(緩衝材、エアクッション)などを内側から貼ったりすれば、ある程度の防寒対策ができます。
窓の寸法を測っておき、近所のホームセンターなどで相談してみましょう。
まとめ:これからの季節はとくにご用心!
これからの季節は、とくにヒートショックが起こりやすくなりますので、入浴時や夜間のトイレには十分ご注意ください。
もっとも確実な家庭内のヒートショック対策は、寒暖差が少ない住宅に住むことですが、国内の多くの家屋は気密性や断熱性が低く、寒暖差が起こりやすいのが現実です。
ですので、ヒートショックが起こりやすい場所には暖房器具を設置して寒暖差を極力なくすように努力し、お風呂の温度や入り方にも気をつけてください。
また、浴槽や洗い場に手すりをつけたり、段差をなくしたりするなど、お風呂場周りのバリアフリー化ができれば、お風呂場の安全性は高まります。
介護保険の対象になっている人がいる場合は、バリアフリー化のリフォーム工事に対して補助金が適用される場合もありますし、自治体ごとに補助金制度を設けていることもあります。
各地域の役所などで、利用できる補助金の有無を、ぜひ確認してみてください。
この記事の監修者
高橋正美 【健康管理士一般指導員】
日本FP協会所属のファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)として相談業務にあたる中、お客様の急死や、若い仲間の大病による入院などを目の当たりにして、生活習慣病予防の大切さを痛感。医療費等の支出削減を図るためにも、健康管理が重要であることに気づき、健康管理士一般指導員の資格を取得。お客様相談の中で、必要に応じて健康寿命延伸のための情報も提供している。