業務委託・外注の確定申告等はどうするか?定年退職後のシニア事業主のお悩み解決!
会社員として会社勤務をしていると、あまり意識することがない年末調整や確定申告。定年退職後などに業務委託・外注になった人は、年末調整と確定申告のことをしっかりと理解しておきましょう。
- 目次
- 年末調整と源泉徴収
- 年末調整とは「源泉徴収した所得税の過不足を調整する」こと
- 業務委託・外注と会社員の違い
- 業務委託契約には3種類ある
- 請負契約
- 委任契約
- 準委任契約には「履行割合型」と「成果完成型」の2種類がある
- 業務委託・外注で仕事をする個人事業主の年末調整・源泉徴収はどうなる?
- 業務委託契約の報酬の源泉徴収対象は?
- 個人事業主に年末調整は関係ない?
- 源泉徴収額の計算方法
- 業務委託契約の人にかかる税金は「所得税」と「消費税」
- 所得税
- 消費税
- 税務署で行う確定申告の方法
- 確定申告書
- 添付・提示書類1:収支内訳書、または青色申告決算書
- 添付・提示書類2:各種控除等にかかる領収書等
- 添付・提示書類3:源泉徴収票、支払調書
- マイナンバーカード
- 印鑑は不要
- 確定申告を必要としない場合
- 確定申告はネットやスマホからもできる
- まとめ:業務委託契約をしたら確定申告を忘れずに
60歳、65歳、70歳の定年退職を期に、新たに個人事業主となり、外注社員として企業と業務委託契約を結ぶ人もいるでしょう。この記事では、個人事業主として業務委託・外注の契約を結んだ人が、年末調整や確定申告をどのように行うべきかを解説していきます。
年末調整と源泉徴収
会社員として長らく会社勤めをしていると、年末調整や源泉徴収の手続きは会社任せで、確定申告をほとんどしていなかった人が多いかと思います。
しかし60歳や65歳、70歳で定年退職したあと、個人事業主として働く道を選んだ人にとって、確定申告は避けて通れません。
ところで、年末調整とは、また源泉徴収とは、どのようなものなのでしょうか?
年末調整とは「源泉徴収した所得税の過不足を調整する」こと
企業から従業員に支払われる月々の給料や賞与・ボーナスは、所得税を引いた金額となります。
税金や年金、健康保険料、雇用保険料などをあらかじめ給料から引いておくことを「天引き」などと言いますが、企業が従業員の給料から所得税を天引きすることを「源泉徴収」といい、企業はその源泉徴収した所得税を、従業員に代わって国に納めます。
従業員の1年分の所得税額は、その年に支給された給与などの総額を基に決定されます。実際の所得税額が源泉徴収された税額と比較して過不足がある場合は、原則としてその年の最後に支給される給与支払いの際に、従業員から不足額を源泉徴収するか、あるいは過納額を還付しなければなりません。
このように、源泉徴収した合計額と比較して、過不足金額を調整することが「年末調整」です。
12月などの年末の給料が、いつもの月よりも多い場合、それは還付金が上乗せされていることによるものです(※)。
※還付金が生ずるだけでなく、追加徴収が発生しても、その額がいつもの月よりも少なけれれば、手取りはいつもの月よりも多くなります。年末調整で過不足が生じないことはほとんどありません。
業務委託・外注と会社員の違い
源泉徴収や確定申告のお話をする前に、業務委託契約や外注の定義と、会社員との違いを解説します。
業務委託契約には3種類ある
外注や業務委託とは、社外の人に仕事を任せる形態のことを指します。
定年退職後に、今まで勤務していた会社と嘱託契約を結ぶ再雇用や、違う企業に転職して雇用契約を結ぶ再就職とは異なります。
また、企業に属して働き、各種の保険などに加入できる契約社員やパートタイム、アルバイトとも異なる契約形態です。
業務委託契約は、厳密にいうと「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3種類に分けられます。
請負契約
請負契約は、請負者(仕事を引き受けた者)がある仕事を完成させ、発注者(仕事を依頼した者)がその仕事の結果に対して報酬を支払う契約のことです。
建設業などでも自治体発注の工事案件を受注し契約するときに、「請負契約」が結ばれることがほとんどです。
委任契約
委任契約は、請負契約のように成果物を納めるのではなく、委任者がある法律行為を委任し、受任者がその法律行為を遂行する契約です。特約(特別な約束)がある場合に限り、委任者は受任者が遂行した業務に対して報酬を支払います。
弁護士や税理士など、法律に関わる業務を行う職種では、受注者と委任契約を結びます。
準委任契約には「履行割合型」と「成果完成型」の2種類がある
委任契約が法律行為を委託する契約であるのに対して、法律行為でない事務処理を委託する契約を準委任契約といいます。
その準委任契約には、2種類の契約の型があります。
業務時間や工数など、業務量に応じて報酬が支払われる「履行割合型」と、業務の履行によって得られる成果に対して報酬が支払われる「成果完成型」です。成果完成型は、2020年4月の改正民法で追加されました。
請負契約と、成果完成型の準委任契約は似ているようですが、成果物の内容に対して責任を負うのが請負契約で、責任を負わないのが成果完成型の準委任契約です。
請負契約では決められた期日までに決められた品質の成果物を必ず納品しなければならず、契約が守られなかった場合は発注者が請負者に損害賠償を求めることもあります。
一方の成果完成型の準委任契約では、善管注意義務といって通常期待される注意義務を果たしていれば、完成に至らなくても損害賠償を求められることはありません。
業務委託・外注で仕事をする個人事業主の年末調整・源泉徴収はどうなる?
ここで気になるのが、業務委託で働いた場合の年末調整や源泉徴収はどうなるかです。法人同士の業務委託契約の場合は、源泉徴収をすることはありませんが、例外として、馬主である法人に支払う競馬の賞金は源泉徴収をする必要があります。
参考:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁
個人事業主として仕事をしている人が、業務委託や外注として契約をした場合は、支払われる対価は給与でなく報酬という扱いになります。企業が個人へ報酬を支払う際、源泉徴収をするケースとしないケースがあります。
続いては、源泉徴収されるケースについて説明していきましょう。
業務委託契約の報酬の源泉徴収対象は?
業務委託契約を結んだ個人の場合の源泉徴収となる範囲は以下のとおりです。
- 原稿料や講演料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手、プロサッカー選手、プロテニス選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
- 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
- ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とする、いわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
- プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
また、謝礼、研究費、取材費、車代などの名目で支払われていても、その実態が報酬・料金等と同じであれば源泉徴収の対象です。金銭ではなく物品等で支払う場合も報酬・料金の扱いとなります。
つまり、個人事業主自身の職種や業務の内容によって、報酬を源泉徴収される場合とされない場合がある、ということがわかります。
参考:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁
個人事業主に年末調整は関係ない?
個人事業主は、毎年2月16日~3月15日までの1か月間のあいだに1年間の納税額を計算して確定申告を行い、納税を個人で行うのが原則です。
ただし、アルバイトなどの副業をしている場合には、その勤務先が給与などの総収入金額を基に年末調整を行うことがあります。その場合でも、業務委託・外注の対価である報酬や料金等は、年末調整の対象には含まれないので、すでに年末調整をした給与等を含めて、確定申告をしなけれればなりません。
また、個人事業主のうち、アルバイトなどの従業員がいる場合や、青色申告者で家族などを青色事業専従者にしている場合は、その従業員等に対する源泉徴収や年末調整が必要になり、源泉徴収した税金を国に納めなければならず、かつ、その年の翌年1月末までに従業員等へ源泉徴収票を交付するとともに、当該従業員等の住所地の市区町村に対して、給与支払報告書を提出しなければなりません。
このように、業務委託・外注で仕事をする個人事業主にとって、「年末調整」は、必ずしも無関係ではないことがわかります。
源泉徴収額の計算方法
すでに述べてきたように、個人事業主でも源泉徴収をしなければならない場合がありますので、源泉徴収額の計算方法について解説します。
給与などとして従業員や青色事業専従者などに支払う金額については、その金額から非課税とされる交通費相当額や社会保険料等を控除したあとの金額を、課税対象金額として扶養控除等の数に応じて所定の税額を源泉徴収します。
また、特定の仕事を個人に外注し、報酬や料金を支払う場合の源泉徴収額は、報酬金額が100万円以下ですと「報酬額×10.21%=源泉徴収額」となりますが、100万円を超えると、「102,100円+(100万円を超えた部分×20.42%)=源泉徴収額」となります。
業務委託契約の人にかかる税金は「所得税」と「消費税」
業務委託契約の人には、次のような税金がかかってきます。
所得税
業務委託契約で得た報酬には所得税がかかります。基本的に年度内に得た収入から、経費・控除を差引いて税率をかけ、更に控除額を差し引くことで計算できます。
消費税
業務委託契約による収入金額の合計額が年間1千万円を超えるような場合には、消費税がかかることもあります。会社員の雇用契約で得た給与には消費税がかからないため、意外に見落としがちですが、この点も正しく理解しておいてください。
なお、来年(2023年)10月からはインボイス制度が始まります。これに基づき、課税事業者届出書を提出した個人事業主は、来年10月以降、収入金額が年間1千万円以下であっても消費税を納める必要があります。
税務署で行う確定申告の方法
確定申告は、毎年1月1日から12月31日の1年間の所得にかかる税金を計算して、翌年の2月16日~3月15日の1か月の間に、居住地域を管轄する税務署に申告書類を提出します。
最近では「e-TAX」というインターネット上での確定申告方法も普及していますが、ここでは税務署で確定申告を行う方法について解説します。
確定申告書
一方のA様式は、所得が給与所得、公的年金などの雑所得、配当所得、一時所得のみの人で、予定納税(税金を前払い)がない場合に使用できます。B様式よりも記入項目が少ないのが特徴です。
たとえば、会社員やアルバイト等で複数の会社等に勤務するなどの事情により年末調整を完了していない人や、年金受給者が申告をする場合に使うことが多いと思われます。
また、年末調整を完了している人であっても、住宅借入金等特別控除の初年度や、1年間にかかった医療費が10万円、または総所得金額等の5%のいずれか小さい額を超えたときに適用となる医療費控除、災害等の損失にかかる雑損控除、または寄付金控除の適用を受けようとする場合に使用します。
なお、源泉徴収や中間納付等で、すでに納めた税額が納めるべき税額を上回っている場合は、確定申告後に超過分の税金が還付されます。その場合、確定申告書類に受取口座を記載する必要がありますので、銀行名、当座か普通、支店名(ゆうちょ銀行の場合は店番か店名)、口座番号(ゆうちょ銀行の場合は記号・番号)、名義人氏名などを控えておきましょう。
添付・提示書類1:収支内訳書、または青色申告決算書
確定申告書と合わせて、白色申告者は収支内訳書を、青色申告者は青色申告決算書を、それぞれ添付する必要があります。
また、確定申告書と収支内訳書・青色申告決算書は、1年間の取引を記録した帳簿を元に作成しますので、内容確認のために領収書や受領書の持参もおすすめします。
確定申告書や、収支内訳書、青色申告決算書は、最寄りの税務署や確定申告会場、市区町村の窓口などで入手できますが、自宅でインターネットにつながれば、国税庁のサイトからダウンロードして自宅のプリンターで印刷することもできます。
国税庁サイトの確定申告書等作成コーナーでは、必要事項を記入済みの書類を作成することも可能です。
自宅にプリンターがない場合は、コンビニの印刷サービスなどを活用すれば、近くのコンビニで書類を印刷することもできるでしょう。在宅ワークでプリンターを購入せず、書類はすべてコンビニで印刷する人も増えていますので、この機会にぜひ活用してみてください。
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添付・提示書類2:各種控除等にかかる領収書等
社会保険料控除や生命保険料控除、地震保険料控除など、各種の所得控除等の適用を受けるためには、所定の領収書や控除証明書、送金証明書等、在学証明書等を添付、または提示をする必要があります。
なお、医療費控除の適用を受けようとする場合は、医療費通知および医療費の領収書等を転記した医療費控除の明細書を添付しなければなりませんが、内容確認のために領収書等の持参もおすすめします。
住宅借入金等特別控除等については、下記の国税庁内の資料(PDFページ)を参考にしてください。
令和3年分(特定増改築等)住宅借入金等特別控除を受けられる方へ(住宅の増改築用)(国税庁)
添付・提示書類3:源泉徴収票、支払調書
個人事業主が副業でアルバイト等をやっている、または公的年金等の支払いを受けている場合などは、その年の翌年1月末日までに、支払者から源泉徴収票が送られてきます。
給与の支払者が年末調整を行っていて、個人事業主がその際に社会保険料や生命保険料等の控除の証明書を提出している場合は、当該源泉徴収票の所定の欄への記載をもって控除証明書等に代えられますので、平成31年から確定申告書への添付は不要になりましたが、内容を確認するためには必要です。
また業務委託契約を結んだ企業等から個人事業主に宛てて交付される書類に「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」というものがあります。
一般的には業務委託契約の終了時か、取引があった翌年の1月末ごろに個人事業主へ送付することが多いようですが、支払調書は報酬等の支払者が税務署に提出するためのものであって、個人事業主等に対して交付をする義務はありません。
したがって、確定申告時に支払調書を添付する必要もありませんが、銀行口座には源泉所得税額を控除したあとの金額が振り込まれることなどから、支払調書でその年に受け取った報酬額及び源泉徴収税額の確認ができますので、早めに企業等へ交付依頼をすることをおすすめします。
マイナンバーカード
これらの書類を提出する際には、申告者本人を証明するための本人確認書類が必要です。
マイナンバーカードを所有している場合は、提示をするか、その表面、裏面のそれぞれ写しを確定申告書に添付します。
マイナンバーカードがない場合は、番号確認書類(通知カードかマイナンバー記載の住民票)および本人確認書類(運転免許証、健康保険証、パスポートなどのいずれか)を提示するか、それぞれの写しを確定申告書に添付しなれけばなりません。
印鑑は不要
かつて、確定申告書、収支内訳書、青色申告決算書には押印欄が存在したため、確定申告には印鑑が必須でした。
しかし、電子署名を推進する国の方針において、押印を廃止しようとする方向性が打ち出されました。
国税関係もその例にもれず、令和3年度税制改正により、2021(令和3)年4月1日以降、多くの税務関係書類で押印義務が廃止となりました。
現在、押印が必須の書類は「担保提供関係書類」や「遺産分割協議書」などに限られています。
確定申告を必要としない場合
ところで、下記のいずれかに該当する場合は、個人事業主であっても所得税の確定申告を要しません。
- その年分の総所得金額等が、各種所得控除額の合計額以下であるとき
- 総所得金額等から各種所得控除の額を控除したあとの課税所得金額にかかる所得税の合計額が配当控除の額以下であるとき
- 個人事業主が副業に関して年末調整を行った場合において、その年分の年末調整を行っていない給与等の金額と、本来の事業所得等をはじめとした給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であるとき
ただし、総所得金額等がマイナスであるため、翌年以降に純損失の繰越控除の適用を受けようとするとき、または雑損控除額が総所得金額等を超えているため、翌年以降に雑損失の繰越控除の適用を受けようとするときは、確定申告をすることをおすすめします。
またこの規定はあくまで所得税に限るものであって、住民税についても確定申告をしなくてもよいことを意味するものではありません。
確定申告はネットやスマホからもできる
最近では「e-TAX」という電子申告で確定申告をする方法も確立されています。
税務署に行く手間がはぶけるだけでなく、青色申告者で一定の要件に該当する者にとっては、65万円の青色申告特別控除が認められるというメリットもありますので、「e-TAX」による電子申告をおすすめします。
なお、e-TAXで申請をする場合は、マイナンバーカードの取得や、ICカードリーダライタの購入などの下準備が必要です。
詳しくはe-Taxホームページをご確認ください。
まとめ:業務委託契約をしたら確定申告を忘れずに
長く会社員生活を送っていると、多くの場合は年末調整でその年の所得税を納税する手間が完結し、確定申告などから縁遠くなるため、源泉徴収票や支払調書も何のためにあるのかわからない…と思う人も多いことでしょう。
しかし、個人事業主は確定申告の時期になると煩雑な書類作成をして税務署へ行き、長い行列を作らなくてはならない、そんなイメージがあったかもしれませんが、確定申告のルールをきちんと理解していれば、決して難しいものではないことがわかったのではないでしょうか。
定年退職後に個人事業主として活動し、業務委託や外注の仕事を探している人は、シニア専門人材エージェントなどに相談してみましょう。
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この記事の監修者
新名範久 【税理士・社会保険労務士】
「新名範久税理士・社会保険労務士事務所」所長。 建設、不動産、理美容、小売、飲食店、塾経営といった幅広い業種の法人や個人の税務・会計業務を行う。社会保険労務士として、法人の社会保険業務も担当。1人でも多くの人に、税金に対する理解を深めてもらいたいと考え、業務を行っている。 税理士、社会保険労務士、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、測量士補、CFP、FP技能検定1級、年金アドバイザー2級、証券外務員1種などの資格を保有。