フレイルを予防する食事方法
要介護にならずに、いかに長く健康状態を保つかは、超高齢社会を生きていく上で、とても重要です。今回は健康と要介護の間にある「フレイル」を予防する食事方法について、お伝えします。
- 目次
フレイルとは、適切な介入があれば要介護へ至ることを予防できる状態
フレイルとは、2014年に日本老年医学会が提唱した概念で、最近では老年医学の世界だけでなく、一般社会でもよく耳にするようになりました。
フレイルを簡単に説明すると、健康な状態と、日常生活でサポートが必要な要介護との間にある中間の段階で、加齢や病気、周辺環境などの変化によって、心身がもろくなった状態を指します。
日本老年医学会ではフレイルを「適切な介入がなされれば要介護になることを予防できる、可逆性(元に戻ることができる)を有する状態」と定義しています。
つまり、いち早くフレイルへの対策を行えば、要介護になることを防ぎ、元の健康な状態に戻れる可能性があるということです。
参考資料
フレイルの意義 - 日本老年医学会
なぜ今「フレイル予防」が重視されているのか
近年「フレイル予防」が重視されるようになった背景には、日本社会の超高齢化があります。
少子高齢化で労働人口は年々減少しており、介護施設に入所できない「介護難民」や、高齢者がさらに高齢者の介護をする「老老介護」など、介護をめぐる問題も続出しています。
そこで、要介護者を少しでも減らし、元気な高齢の労働者に活躍してもらえるように、健康寿命を長く保つことが重視されるようになったのです。
出典:健康寿命の令和元年値について - 厚生労働省(P2「健康寿命の推移」より)
厚生労働省の「健康寿命の令和元年値について」という資料によると、2019(令和元)年時点の平均寿命は、男性が81.41歳、女性が87.45歳ですが、健康寿命の平均は、男性が72.68歳、女性が75.38歳となっています。
つまり不健康な状態で過ごす期間が、男性は約9年、女性は約12年もあるということです。
要介護の状態を遠ざけて、健康寿命を長く保つには、その前段階のフレイルにいち早く対応する必要があるでしょう。
参考資料
健康寿命の令和元年値について - 厚生労働省
労働人口減少問題に関連した記事
人手不足の解消にシニア人材の活用がおすすめ!シニア求人サイトを徹底比較(慢性的な人手不足の主な原因は「少子高齢化」)
フレイルには「身体的」「精神心理的」「社会的」の3種類がある
フレイルには「身体的フレイル」と「精神心理的フレイル」、そして「社会的フレイル」があるとされています。
身体的フレイル(フィジカルフレイル)は、加齢に伴い筋肉量が減少する「サルコペニア」、病気や加齢により骨や関節、筋肉などの運動器が衰えて、立ったり歩いたりなどの日常生活に支障を来している状態の「ロコモティブシンドローム」などが代表的なものとして知られています。
精神心理的フレイル(メンタルフレイル)は、こころ・心理の虚弱した状態で、進行するとうつや認知症につながる恐れがあります。
社会的フレイル(ソーシャルフレイル)は、定年退職や子世帯の独立、熟年離婚などによって社会とのつながりが薄くなり、孤独や経済的困窮を抱えた状態を指します。
参考資料
フレイル予防(公益社団法人 東京都医師会)
熟年離婚・独身などに関連した記事
フレイルを予防する3本の柱は「栄養」「身体活動」「社会参加」
続いて、フレイルを予防する方法を見ていきましょう。
フレイルの予防には、3本の柱が存在します。「栄養」と「身体活動」、そして「社会参加」です。
「栄養」という柱では、タンパク質が豊富でバランスの取れた食事を摂ることと、歯科口腔の定期的な管理を行います。
「身体活動」という柱では、運動や社会活動などに参加し、体を積極的に動かします。
「社会参加」という柱では、就労や余暇活動、ボランティア、社会貢献など、社会との関連を強める動きを行います。
余暇活動に関連した記事
高齢期に痩せてきたらメタボ予防からフレイル予防へシフト
健康を意識するうえで、中年期の場合は、太りすぎやメタボリックシンドロームに注意することが重要ですが、高齢期においては、痩せすぎや栄養不足などの低栄養の状態に気をつけなくてはなりません。
実はBMIやアルブミン(血液中のたんぱく質を示す数値)などの数値が低い人のほうが、高い人よりも死亡のリスクが1.6〜1.65倍も高いのだそうです。
ですので、高齢期に痩せてきたら、食事制限よりも、栄養バランスを考えた食事をしっかり摂ることを意識してください。
フレイル予防や健康長寿のためにも、痩せすぎや低栄養の状態には要注意です!
参考資料
予防のポイントその1「食べる(栄養)」|東京都介護予防・フレイル予防ポータル
フレイルを予防する食事方法、5つの法則
今回はフレイルを予防する3つの柱のうち、「栄養」に関連した食事方法について詳しく解説していきます。
フレイルを予防する食事方法には「3食しっかり食べる」「いろいろな食品をバランスよく摂る」「たんぱく質を意識する」「噛みごたえのあるものを食べる」「孤食を避けて共食を意識する」などがあります。
それでは詳しい内容を見ていきましょう。
参考資料
高齢者のフレイル予防事業 - 厚生労働省
1.朝昼晩、3食しっかり食べよう
高齢になると、食欲が減退したり、食べ物の消化に時間がかかったり、などの要因から、1回の食事量が少なくなりがちです。
そんな中で、貴重な1回の食事を抜いてしまうと、低栄養に陥りやすくなってしまいますので、朝昼晩の1日3食の食事をしっかり摂るように心がけてください。
3食しっかり食べていても栄養が十分に摂れていない場合は、間食で足りない栄養を補いましょう。
2.いろいろな食品をバランス良く食べよう
特定の食品ばかり食べていると、栄養が偏ってしまい、低栄養状態を招きかねません。
毎食、主食・主菜・副菜・汁物などをそろえ、いろんな食品をバランスよく食べることを心がけてください。
また、水分が少ないパンを主食とした場合は、誤嚥を防ぐため、汁物やお茶、牛乳などを用意しておくと安心です。
なお、高血圧の人の食事やメニューについては、減塩なども意識する必要があります。
血圧が高い人は、下記の記事も参考にしてください。
脂肪肝の人の食事やメニューについては、下記の記事も参考にしてください。
脂肪肝を改善するための食事方法と簡単なレシピ【健康管理士監修】
3.たんぱく質を意識して摂ろう
以前「100歳まで生きる人の特徴に学ぶ、健康長寿の秘訣」という記事でもお伝えしたように、元気な100歳の食事には「たんぱく質をしっかり摂取している」という特徴があります。
とくに卵や豆腐、牛乳、加工肉、豚肉、白身魚などがよく食べられており、さらにたんぱく質を多く含む食材を1食で2品以上食べていることもわかりました。
また、たんぱく質の摂取量が多い人のほうが、フレイルやサルコペニアの発症率が低いこともわかっています。
植物性たんぱく質や動物性たんぱく質など、どちらかに偏らず、両方のたんぱく質をバランス良く摂るように心がけてください。
参考資料
日本人の食事摂取基準(2020 年版) - 厚生労働省 P113 3─3─1 生活習慣病及びフレイルとの関連より
4.噛みごたえのある食事を摂ろう
口腔機能が低下し、噛む力が衰えることを「オーラルフレイル」と呼びます。
オーラルフレイルになると、低栄養状態に陥りやすいだけでなく、滑舌の悪化や、飲み込む力の低下によって「誤嚥性肺炎」などを引き起こしやすくなってしまうのです。
そうならないためには、下記のような取り組みをおすすめします。
- 人と会話をする、歌う、あいうべ体操などをして口周りの筋肉を鍛える
- 定期的な歯科検診や毎食後の歯磨きなどで口腔衛生を保つ
- 無理のない範囲で、噛みごたえのある食事を摂る
食事においては、噛む力を鍛えるため、ある程度の噛みごたえがある食べ物を定期的に摂るようにしましょう。
5.孤食を避け、共食を意識しよう
食事の方法は、心の栄養摂取にも深く影響しています。
高齢者のうち、1人で食事を摂る「孤食」の人と、誰かと一緒に食事を摂る「共食」の人を比べた場合、孤食の人のほうがうつ症状を発症しやすいのだそうです。
やはり食事は1人で黙々と食べるよりも、人と一緒に食卓を囲んで会話を楽しみながら食べるほうがおいしく感じられるものです。
先ほどご紹介した100歳の人の食事に関する調査でも、8割以上の人が、誰かと一緒に食事を摂っていることがわかっています。
また、日常的に人との会話が減ると、口腔機能の低下やオーラルフレイルを招く原因にもなりますので、共食の機会を増やすことをおすすめします。
参考資料
まとめ:食事方法を見直してフレイル予防に取り組もう!
フレイルを予防するには、適切な運動や社会活動への参加などとともに、食事の摂り方を見直す必要もあります。
「3食しっかり食べる」「いろいろな食品をバランスよく摂る」「たんぱく質を意識する」「噛みごたえのあるものを食べる」「孤食を避けて共食を意識する」などを意識してみてください。
また、体重の減少によるBMI値の低下や、血中のたんぱく質を示すアルブミンの値が低下してきたら、メタボ対策から低栄養対策に切り替え、しっかり食事を摂るように心がけましょう。
健康寿命を延ばすため、今日からフレイル予防を始めましょう!
健康に関する記事はこちらもご参考くさだい。
この記事の監修者
高橋正美 【健康管理士一般指導員】
日本FP協会所属のファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)として相談業務にあたる中、お客様の急死や、若い仲間の大病による入院などを目の当たりにして、生活習慣病予防の大切さを痛感。医療費等の支出削減を図るためにも、健康管理が重要であることに気づき、健康管理士一般指導員の資格を取得。お客様相談の中で、必要に応じて健康寿命延伸のための情報も提供している。